「怖くないなんて 嘘なんです」
スタジオの隣になる小さな部屋で私と佐藤さんはふたりで待っていた。
そう、彼女達プロデューサーを。
「もう、大分慣れた?」
「いえ、全然ですよ」
「そう?緊張とかしてなさそうだけど」
「してますよー、でも。何だか落ち着いてます」
「そう・・・良かったね」
「?」
「こんな大きな仕事貰えてさ」
「・・・はい。でも、私で務まるのでしょうか?」
「自信を持っていいと思うよ。あの子安社長が耳だけで君を探しだしたんだから」
「・・・はい」
「社長があんなに頑張っている姿見たのは初めてだし」(ボソ)
「え?」
「ううん、何でもないよ」
ボソッと呟くように言った佐藤さんの声を私は聞き取ることが出来なかったが
何だか凄いことを言われたような気がする。
暫く待っていると揃って4人が入ってきた。
「待たせてしまってすみません」
「いえ、宜しくお願いします」
「えぇ、宜しくね。さん」
「はいっ、宜しくお願いします」
「行き成り主人公なんてプレッシャーかもしれないけど」
「頑張ってね」
「・・・はい」
「今後のスケジュールは後程打ち合わせさせて下さい」
「はい、詳しいスケジュールは佐藤さんの方へ後日渡しますね」
「はい」
この時渡された書類は今回の作品が載っているものと、今日ナレ撮りをする文章が載っているもの。
その文面を読み始め、私はだんだん緊張が強くなってきたのを感じていた。
ネオロマンス
「ネオロマの作品の1つなんだよ。だから、イベントもあるし、アニメだけじゃなくゲームやDVDも」
「ドラマCDだってあるし、歌も出す」
「・・・あの」
「ん?」
「私・・・何かでいいのでしょうか?」
「さんがいいんだよ。私たちはね」
「・・・・・・」
「さんが新人だからとかそんなんじゃないの」
「・・・はい」
「この主人公は勝気な子でね」
「・・・・・・」
「でも、とっても綺麗な心を持っている子なの」
「・・・・・・」
「心が綺麗っていうのはね、声にも表れるんだよ」
「え?」
「主人公は絶対にさんしか出来ないよ」
「・・・でも」
「怖い=H」
「・・・正直怖い≠ナす。新人である私がこんなに大きな大役を」
「・・・そっか、じゃあ試し≠ナいいから今日のナレ撮りやってみようよ!」
ね!と半場押し切られる形でブースに入ってしまった私はさっきの書類を片手に震えていた。
目を閉じ、心の中には主人公の彼女を描いてみる。
勝気な―――それでも 心は綺麗な彼女
出来るだろうか?
ううん
やってみなきゃわからないだろう
私を見つけてくれた子安さん
私を応援してくれたあの女性のお客様
私を心配してくれる友人たち
私を励ましてくれた声優の先輩たち
私をと指名をくれたプロデューサーさんたち
みんなの期待を裏切れない
やってみよう
私の出来る限りの声で―――――
『準備はいい?』
「―――――はい」
『じゃあ、音入れるよ』
「お願いします」
気合を入れ、私はヘッドホンをかけた耳に集中させた。
聞こえてきたのはヴァイオリンやフルートなどの楽器で演奏された曲。
聞いたことはない曲。
このアニメの為の曲だそうだ。
金色のコルダ
ある意味、私の今後を決める為の作品になるだろう。
奏でられる旋律は全てのモノを幸せにする―――――
巻き起こるは新たなる風―――――
出会いは必然だった―――――
全ての人を魅了する あの少女の演奏―――――
La melodie qui a ete jouee ―金色のコルダ―
この春放送 お楽しみに―――――
音が終わり、静まるブース。
『お、OK!ちょっと確認するから待っててね』
「はい」
ブースの外では音響さんも合わせてスタッフの確認が始まった。
私はそのままブースの中で待っている状態。
『OK!ちゃんお疲れ様!』
「はい!」
OKの声が掛かり私はブースを出た。
そこで渡されたのは1枚の楽譜とMDだった。
「?何でしょうか?」
「これ、ちゃんの曲」
「私の?」
「うん、ちゃんの声をアニメの中だけじゃなく曲としても使いたくて」
「歌ってことですか?」
「そう、正解」
「でも、私下手です」
「ボイトレとかレッスンとか頑張っていけば誰でも歌えるようになるよ」
それにやっとのことで許可取ったんだしね、と続けられた言葉。
許可なんてすぐに取れただろう、本当は。
(後に聞けば子安さんが渋っていたということだったが)
「じゃあ、後日に出演者たちとスタッフの顔合わせするから」
「はい」
「日時は佐藤さんの方に」
「えぇ、宜しくお願いします」
「じゃあ、今日はこれで」
「はい、お疲れ様でした」
一礼し、私と佐藤さんはスタジオを後にした。
その後、プロデューサーさん達はというと私が出演するこの作品が良い結果が出ると張り切ってCM作りに勤しんだとのことだった。
「今更かもしれないけど」
「何ですか?」
「君って本当に凄い子だよ」
「え?」
「あんな子供みたいな目をキラキラした大人達、久しぶりに見た気がする」
「?」
「君があの人達をそうさせてるってことだよ」
「私がですか?」
「うん、そう。俺もそんな一人だけどね」
「・・・・・・」
「だからさ、もっと笑顔で自信持っていいと思うよ」
「・・・努力します」
「ふふふっ、慣れない現場だもんね」
「あの」
「ん?」
「どうして、私だったんでしょうか?」
「子安社長に聞かなかった?あの場でも言ってたよね」
「?」
俺のココ≠ノ響いたんですよ
「あ」
「思い出した?」
「は、い・・・」
「まー、一種の一目惚れ?いや、聞き惚れ?」
「何ですか、聞き惚れって」
聞きなれない単語に噴き出すように笑ってしまう私を見て佐藤さんは笑っていた。
「でも、社長や俺も、勿論他の役者さん達やスタッフさん達も君を応援したいと思うんだ」
君のその笑い声や
真剣な目をしたあの時の声を
ずっと
ずっと聞いていたいと思うんだ
だから
だからどうか―――――
ひとりで苦しまないで欲しいと思うんだ
08.06.22